難治の膵がんを「超音波」で治療する

ソニア・セラピューティクス株式会社

問い合わせ:info@sonire-t.com
https://www.sonire-therapeutics.com/
東京都新宿区西新宿1丁目23番1号 TK新都心ビル5階

国内で毎年3万6千人が亡くなる難病の、膵がん。東北大学発ベンチャーのソニア・セラピューティクスはその新たな治療法として「超音波」を用いた治療装置を開発している。体にメスを入れず、放射線治療での被曝のおそれもないため、治療時の患者の体への負担が軽いのが特徴。新たながん治療の可能性を拓く技術として注目を集めている。

▲ 佐藤亨代表(左)と吉澤晋CTO(右)

「集束超音波」でがん組織を焼く

同社が開発するのは、超音波を一点に集中させることで熱を発生させ、その熱でがん組織を焼く「集束超音波治療」の装置だ。患者は麻酔をかける必要も開腹手術をすることもなく、ベッドの上に寝そべり、約30分お腹に装置を当てるだけで治療を受けることができる。医師は超音波エコーで映し出された患者の体内をリアルタイムで観察しながら施術を行う。

同社開発品の前身機では、これまでに11人の膵臓がん患者が治療を受けた。「驚いたのは、最初の患者さんが17回の超音波を打ち終えた後に『先生、もっと打って下さい』と言ったことです。それだけ体への負担が少ない。究極的には日帰り治療も可能になるはずです」と、同社CTOで東北大学大学院工学研究科の吉澤晋准教授はその利点を語る。

▲同社が開発している集束超音波治療の装置(同社提供写真)

東北大学での集束超音波研究をきっかけに起業

同社の集束超音波治療の技術は元々、東北大学の吉澤准教授と東京女子医科大学・岡本淳准教授(当時)らの国家プロジェクトによる共同研究で培われてきた。臨床用の治療装置を開発して治験を終え、「あとは実用化するだけ、という段階でした。でもなかなかがん治療の医療機器を実用化しようという民間企業がなかったんです。そこで、自分たちでやるしかない、と」

吉澤准教授らは2019年にベンチャーキャピタルの実施するピッチイベントに参加し、当時がん領域の製薬会社に務めていた佐藤亨さんと出会う。佐藤さんは「岡本さんに『あと一蹴りすればいける、というボールを誰も蹴ってくれない。蹴ってくれないか』と頼まれた。そして製薬会社での経験から、彼らの臨床のデータを見て『これは実用化できる』と直感したんです」と振り返る。佐藤さんが事業面で会社を支える代表となる形で、吉澤准教授がCTOに、岡本准教授がCOOに就任し、意気投合した3人で会社を設立した。

治療の難しい膵がんの新たな治療法に

集束超音波治療は海外製の装置が前立腺肥大や一部脳疾患の治療などに使う形で承認されているが、導入している医療機関はごくわずかだ。さまざまな疾病への利用が期待される中でまず「膵がん」にターゲットを絞った理由は、がんの中でも治療が難しく、生存率が低いためだと佐藤代表は語る。

「膵がんは、いろんな治療法を駆使してもなかなかうまくいっていない領域なんです。膵臓は呼吸によって動く部位なので、放射線治療だと周囲の胃腸に放射線が当たってしまい、胃腸障害が起きることがあります。また、膵がんは血流が乏しく薬剤が留まりにくいため、強い抗がん剤治療をする必要があり、体の負担が大きい。治療の難しさから、5年生存率はわずか10%という数字です」

集束超音波治療はこうした副作用を避けられ体への負担が軽いため、治療の回数を制限することもなく、がんの進行が進んだ患者にも適用できるのが大きな特徴だという。

▲超音波を一点に集めると、わずかなエネルギーでも水を噴き上げ霧状になる。虫眼鏡で光を集めるように、体内のがん組織にエネルギーを集めてピンポイントで治療できる

国内の膵臓がん治療では、ソニア・セラピューティクス社のメディカルアドバイザーでもある東京医科大学病院の医師である祖父尼淳准教授が中国製の装置を使って176人の治療を行った実績を持つ。しかし同装置は、集束超音波治療が普及するためにはあまりにも扱いにくいと佐藤代表は指摘する。

「中国製の装置は熟練の祖父尼先生一人にしか扱えないほど複雑で、誰にでも操作できるものではない。祖父尼先生は天才肌で感覚的にできてしまう人なので、それをいかに多くの医師が使えるものにできるかが大事なんです。もっと見やすく、使いやすいものを作り、一人でも多くの人が恩恵を受けられるような装置を開発したい」

「がん患者と家族に新たな未来を」

同社は2021年6月に約5億3000万円のシリーズA資⾦調達を完了。実用化に向け、安全な治療装置の開発と治験の実施に力を注いでいく。吉澤准教授はこれからの展望をこう語る。「短期的には膵がんの治療向けに治験をして、薬事承認と保険適用を目指していく。そのためには色んな医師が扱える装置を開発しなければいけません。膵がんでの治療が有効だと認められたら、治療対象の疾患を広げる、国内から海外へ広げる、というように超音波治療の領域を広げていくことが目標です」

佐藤代表も「一番難しいところで実証されれば、他のところで展開していくのは比較的容易になる。超音波で狙いやすい分野ー肝がん、腎がん、卵巣がんや、骨腫瘍や骨転移などにも治療の対象を広げていけると考えています」と話す。

二人が「集束超音波治療」の未来に夢を抱く背景には、特別な思いもある。

吉澤准教授は「私は修士を取った後で一度民間企業に就職したのですが、企業での研究は基礎研究の時間が削られている現状があり、しっかり研究がしたい、と大学に戻りました。せっかく大学で研究していてもその先の実用化につながらない、と学生が思ってしまう現状はとても残念に感じます。研究が実用化され、本当に人の役に立って、社会をこんなに変えられるんだ、それなら大学で研究したい、と学生には思ってもらいたい。だからまずは私自身が学生時代から研究している超音波治療を実用化することで、そういう姿を学生に見せたい。大学の教員として、夢を持って研究できる社会にしたいんです」。

佐藤代表は「これまでずっとがん領域に関わってきて、私の家族もそうですし、がんで亡くなった人の悲しい話はたくさん聞いてきました。今取り組んでいることはがん治療を大きく変えていけると信じているので、『音響工学でがん患者さんとその家族に新たな未来をもたらす』という私たちのミッションを実現していきたい」と、声を詰まらせながら語った。

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