発明品×製品化 ケーススタディ 共創通信 Co-Creation Report

発明品×製品化 ケーススタディ 共創通信 Co-Creation Report

東北大学大学院 工学研究科
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ボールウェーブ株式会社
物理学上の発見から
生まれた新技術。
ボールSAWセンサーで
世界を目指す。

CASE #01

SAW多重周回現象

超高感度センサ開発・製造・販売

物理学の常識を破る波動の長距離伝搬現象を発見。

地震の際に発生する波(地震波)には、初期微動のP波、主要動のS波のほか、さざ波のように地表を伝わる表面波がある。巨大地震が起きた場合、地球の表面を何周も回る表面波が発生することが知られている。表面波を利用した技術は、日常生活に不可欠な機器でも利用されている。その一つが、携帯電話等に搭載されているSAWフィルタである(SAW=Surface Acoustic Wave弾性表面波)。SAWフィルタは、圧電体(圧力を加えると電圧を発生し、電圧をかけるとそれに応じて振動する素材)の表面波を利用したデバイス。SAWフィルタには、電極の周期を工夫することで特定の波だけを伝え、それ以外は伝えないという特性があり、これが携帯電話による通話を可能にしているという。
表面波については、「伝わるにつれて広がり、次第に減衰していく」というのが物理学の常識だった。だが1999年、東北大学からその常識を覆す発見がもたらされる。それは、「球の表面を赤道(大円)に沿って伝わる表面波は、どこまで伝搬しても広がらず、同じ幅を保ったまま伝搬する」というものだ。

新現象を理論計算で解明、最適幅の発見から新技術の開発へ。

この発見の中心にいたのが、現在ボールウェーブ株式会社で取締役研究・開発部長を務める山中一司東北大学名誉教授である。山中氏は発見までの経緯をこう説明する。
「きっかけは、あるベアリングメーカーから、軸受球の研磨傷の検査方法について相談を受けたこと。レーザで励起した表面波を用いてベアリングボールの検査を行ったところ、表面波が10周以上周回するという現象が確認された。球だから何周かは回るだろうという予想はあったが、それをはるかに超える多重周回が起きた。さらに、一定の幅のバンドの中に波が閉じ込められているということも分かったのです」。
山中氏は、その後1年あまりの時間をかけ、この現象を再現する理論計算に取り組む。そして導き出されたのが、回折によって拡がることのない、多重周回に有利な最適幅の計算式だ。「最適幅の発見は、現象の解明にとどまらず、新たなデバイスの開発に道を開く、いわば第2の発見だった」という山中氏。そして誕生したのが、ボールSAWセンサだった。ボールSAWセンサは、球状の圧電体の赤道上にすだれ状の電極を設置したもので、球の赤道上を音速の表面波が何百周も周回する。表面波の伝搬経路上には感応膜が設置され、極微量から高濃度までのさまざまな気体の測定に対応する。測定の心臓部となる圧電体には直径3mmの単結晶水晶を使うため、耐腐食性が高いという特徴をもつものだった。

小型・高速・高感度なボールSAWセンサの応用に挑戦。

「水面に石を落とせば波紋が広がるという物理学の常識に対し、波が広がらず1か所にとどまり続けるというのだから、それは驚きだった」と話すのは、当時凸版印刷総合研究所に所属していた赤尾慎吾ボールウェーブ株式会社代表取締役社長である。
山中氏は、赤尾氏らと連携しながら、さまざまな応用研究に挑戦。世界最大の検出濃度範囲を誇る水素ガスセンサや携帯型ガスクロマトグラフ、さらには、ボールSAWセンサを用いた微量水分計ユニットの事業化に取り組んだ。その途上で、凸版印刷が会社規模の大きさとSAWセンサ事業のサイズ感の乖離もあり研究開発から撤退するという局面も生まれたが、赤尾氏は「研究はその人がやめてしまったらそこで終わる」という山中氏の言葉に背中を押され、東北大学に移籍し研究を継続するという道を選択した。こうして積み上げられた研究開発実績を土台に、2015年11月、ボールウェーブ株式会社は誕生。設立に際し、東北大学産学連携機構も知材・特許の移転面で支援を行った。
ボールウェーブ株式会社のビジョンは、「Beyond the Wave」という言葉に集約される。その意味は、「新規原理によるボールSAWセンサを差別化要因の核にして、人類の目となり神経系となり技術の地平へと誘う」ということ。小型・高速・高感度なセンサというオンリーワンの技術を武器にさまざまな産業のニーズに対応し、来るべき水素社会ならびに環境の安全・安心に貢献することを目指している。

超微量水分計を製品化、オンリーワンの技術で世界へ。

ボールSAWセンサには、2つの市場が期待されるという。その一つが半導体製造の現場だ。半導体の製造過程で特に嫌われるのは、水分の混入。これを防ぐには高精度の水分計測器が必要だが、精度を求めれば求めるほど大型にならざるを得ないということが従来の装置の課題だった。その点、ボールSAWセンサは超小型、半導体製造ラインへの組み込みが可能な点も魅力の一つとなっている。期待を寄せるもう一つの市場が、水素ビジネスだ。自然界にふんだんに存在する水素は、燃料電池車をはじめ、クリーンなエネルギーとして注目されている。しかし、水素の利用には爆発の危険が伴うため、高感度のガス漏れ検知技術が不可欠となる。この点でも、従来のセンサに比べ感度が100倍のボールSAWセンサには、大きな需要が見込まれるという。赤尾氏は、将来的な市場規模と同社の売上目標を次のように見込む。
「私たちの主要製品である微量水分計と湿度計の世界市場は年間で600億円程度といわれています。その中の150億円に加え、装置組み込みセンサの分野で新規に150億円の市場を創出し、トータルで300億円の市場が私たちのターゲットになると考えています。2023年度までにその内の約22%、65億円の売上達成が当面の目標です」。
同社ではすでに、ボールSAWセンサを用いて工業用ガスや天然ガスにごく微量含まれる水分子を定量的に測定する超微量水分計「Falcon Trace」を製品化、2017年7月からは試用版の提供を開始し、量産化に向けた準備も着々と進んでいる。直径わずか3mmのボールSAWセンサには、現在はまだ海外メーカーの製造品が中心を占める微量水分計の世界地図を大きく塗り替えてしまう、そんな可能性があるのだ。

直径わずか3mmの水晶球を使用したボールSAWセンサ。赤道上にすだれ状の電極が設置され、赤道上を音速の表面波が何百周も周回する。

ボールウェーブ社が開発した超微量水分計。左端がプロトタイプ機で、右端が製品化された「FalconTrace」。小型化とデザイン面での進化が見てとれる。

PROFILE

ボールウェーブ株式会社 代表取締役 赤尾 慎吾

東北大学発のベンチャー企業として2015年11月10日設立。1999年に東北大学で発見された「波動の長距離伝搬現象」を基礎に、その応用として積み重ねられてきた「ボールSAWセンサ」の研究。その成果を製品化し、世界の市場に送り出すことを使命とする同社は、小型・高速・高感度なオンリーワンのセンサ技術を武器に、産業や来るべき水素社会への貢献を目指す。