研究者紹介
山中 謙太 准教授
准教授 山中 謙太(やまなか けんた)先生
●INTRODUCTION●
金属加工は伝統的な学問分野であり、従来から切削や鋳造、圧延、鍛造等様々な方法が用いられています。
昨今では3Dプリンター等を用いて、素材となる金属を積層することでさまざまな形状を作り出す
「アディティブマニュファクチャリング(積層造形)」が産業界にも広がりつつあり、グリーン
テクノロジー・DXを支える縁の下の力持ちとなる新たな金属加工プロセスとして注目されています。
今回は、金属加工プロセスがご専門である金属材料研究所の山中先生にご自身の研究シーズについて伺いました。
金属は、内部構造(組織)で性質が大きく変わります。加工プロセスは、それをコントロールする手段です。
アディティブマニュファクチャリング(積層造形、以下AM)と、鍛造や圧延等の塑性加工では、同じ材料
であっても異なる組織が形成し、特性が異なるものになります。大切なのは、何のために何を作るのか、
そのために素材・加工は何が最適なのかという観点と、それを見極め実現する力です。
昨今注目を集めている金属を対象としたAMプロセスには様々なものがありますが、金属粉末を電子ビ―ム
やレーザーを用いて一瞬で溶かし固めるプロセスが最も代表的です。AMにも適している分野があり、特に
素材が高価で高品質が求められる航空宇宙・医療業界での活用が主流です。したがって、用いられる
金属材料・部材には耐久性や高い信頼性が求められ、破壊の起点となる造形欠陥をいかに低減するかが課題です。
そのためには造形プロセスの最適化とともに粉末自体の品質が極めて重要です。
私たちの研究チームは、プラズマ回転電極法というプロセスを用いて、粒子サイズが均一で造形性に優れ
欠陥(ガスポア)を含まない金属粉末の開発に注力し、高品質なAMが実現できることを証明しました。
粉末や造形物の欠陥がどのように生じるのかを把握することも重要ですので、X線CTを専門とするフランスの
研究チームと共同で欠陥解析も進めています。製品を製造する装置も大変重要ですから、産学連携のチームで
粉末製造装置や金属積層造形装置の開発にも取り組んでいます。求められる製品を実現するため、材料粉末から
装置まで、AMプロセスに関わる研究開発を全方位で推し進めてきました。
一方で、私はAMプロセスだけが専門というわけではありません。数年前、九州で太陽光による発電量が需要
を大きく上回り、出力制限がかかったというニュースが話題になりました。再生可能エネルギーを安定的に利用
していくには、システム内で余剰になるエネルギーを上手に貯める技術も必要です。そうした技術の一つ、余剰
エネルギーを相変化に伴う潜熱を利用して蓄積する蓄熱システムに大きな注目が集まっています。
この相変化材料(PCM)として、熱容量が大きく熱伝導性の良いアルミ合金が期待されています(余剰エネル
ギーでアルミ合金を溶かし、必要な際に凝固させる)。しかし、溶けた反応性の高いアルミを保存する耐久性の
高い材料は何かという課題が生じます。
私は以前から人工関節の材料としてコバルトクロム合金を研究していました。この材料は溶融アルミに対する
耐食性もあり、金属PCMを保存する場合の材料候補です。ただ、コバルト合金は実用性がある割に、加工が難しく
基礎的な研究があまりなされていません。コバルト合金やチタン合金など、専門家が少ない材料も扱うことが
出来る基盤が、新たな社会課題への対応を可能にしていると感じます。
冒頭のお話に近いですが、特定のプロセス・素材を研究しているというわけではありません。
社会課題に対して何が求められているのか、指標となる特性は何か、そこから素材を見極め、必要であれば
組成も検討します。実製品にするためにはたくさんの細かな課題も出てくるのですが、それらにも丁寧に対応
する必要があると思っています。ただ、全く新しいことに取り組んでいても、あるとき不意に、類似の課題が
見えてくることがあります。これは、たくさんの研究を積み重ねてきた私たちの一つの強みではないかなと
感じます。
分野柄もあり、研究成果を産業界に役立てるべきだと強く思っています。企業にも在籍経験があり、ラボ
レベルの試験片で得た最適な条件が、スケールアップすると全く役に立たないといった経験もしてきました。
そのような事態が無くせたらという想いがあります。アカデミアの立場から基礎的な裏付けを持ってものづくりの 指標を提案できる、そういう材料研究者でありたいと思っています。
★産学連携ポイント★
・ものづくり企業(自動車・航空宇宙・医療・エネルギー関連業界での連携実績があります)
・新たな材料・プロセスへのニーズ
・金属積層造形、金属粉末に関心のある企業
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