• twitter
  • twitter

研究者紹介

石原 真吾 助教

2023.03.30
東北大学 多元物質科学研究所 附属金属資源プロセス研究センター 機能性粉体プロセス研究分野
助教 石原 真吾 (いしはら しんご)先生

_______________
●INTRODUCTION●
 「粉」と聞いてまず何を思い浮かべるでしょうか。答えは様々かと思いますが、多くの人の身近
に粉体は存在しています。実は、様々な分野で重要であるにも関わらず、粉体の扱い方やその効率
的な加工方法は、経験則に依存するケースも多く、解決すべき課題の多い分野です。
 今回はこの「粉問題」に取り組み、粉体力学を学問分野として確立しようと奮闘されている石原
先生にご研究内容の話を伺いました。
_______________
 
 私たちの研究室では「粉体」が関わるプロセス全般を扱っています。
すぐにイメージがわかない方もおられるかもしれませんが、小麦粉や調味料等、食品には粉体製品
が多く存在しますし、化粧品や日用品、医薬品にも粉体を固めた、あるいは液体と混合した製品が
多く存在します。セラミックスや鉄鋼製品も、粉体プロセスを経て製造されています。実は粉体は
誰にとっても身近で裾野の広い領域なのです。
 
写真:研究内容を説明する石原先生。
 
 しかし、その産業上の重要性にもかかわらず、粉体とそれを扱うプロセス(例えば粉砕、混合、
分級、充填等)は、経験則で扱われ根拠を持ってプロセスを最適化できていないケースが多くある
と感じています。私たちはこれらの課題に対して、シミュレーションのアプローチで研究を進め、
解を見出そうとしています。
 
図:粉体プロセスのシミュレーション例。(左上:青いボールで赤い粒子を破砕するモデル。
右上:固形油脂(着色)を混合機で混合するモデル。下:金属粒子群を圧縮するモデル。)
いずれも石原先生が離散要素法(DEM)を拡張しクラスター挙動を導入したADEMを適用して
いる。
 
 どのようなことに取り組んできたのか、具体的な産学連携のテーマを一つご紹介します。
皆さんもお使いになるシャンプーやボディウォッシュには、泡立ち等を良くするためにセルロ
ースの誘導体が含まれています。ただ、このセルロースは非常に強固な構造で、いかに加工す
るかが課題でした。化学処理を用いる手法は環境への負荷が大きいため、物理的な処理、すな
わちセルロースを大きな衝撃で粉砕する工程が考えられましたが、物理的処理は大きな力と時
間を要することが課題となっていました。
 
 我々は、振動ロッドミルという粉砕装置でセルロースを粉砕する工程について、ロッドの動
力(力)とセルロースの非晶質化度(結晶構造の秩序の程度。非晶質化度が高いほど結晶構造
が壊れ粉砕ができていることになる)との関係を実験的に検証し、さらに離散要素法(Discrete
ElementMethod: DEM)というモデルを用いてセルロースの非晶質化度をシミュレーションで
精度よく予測することに成功しました。
 
 この研究は、加工の時間を大幅に改善するという成果に繋がり、公益財団法人化学工学会の
粒子・流体プロセス部会および本会の技術賞を昨年度・今年度と連続で受賞できました。
 
図:セルロースの粉砕に関する概要図。右側の実験機は振動ロッドミル。
シミュレーションで振動ロッドミルを再現している。
 
 また、粉体は天候などにより意図せず水分を含むことも多くありますが、私は最近水分を含
む粉体の挙動に大きな関心を持っています。これらは、固体(粉体)と流体をモデル化する必
要があるため、複雑でシミュレーションの難しい系です。
 
 2020年頃にメルボルン大学に滞在する機会があり、こうした水分を含む粉体の挙動に対して
データ科学的なアプローチを適用する試みを行うことが出来ました。具体的には、水分を含む
粉の強度を予測するために、数理モデル(パーシステントホモロジー)を適用したのです。
このモデルを用いることで、構造の均質性の情報を数値化することが出来ました。この値が低
いほど構造が不均一であり、水が偏在し、大きな空隙が存在し粉体がもろくなるという仮説を
立てたところ実験結果もこれに一致するものでした。この研究で、日本粉体工業技術協会奨励
賞(研究奨励賞)を受賞しました。この仮説が正しいかどうかも気になっていますので、2024
年度に稼働する放射光施設で粉体構造を見てみるのも面白いなと思っています。
 
 粉体については、粉一つ一つの挙動をモデル化してシミュレーションを行うことは不可能で
はありませんが、非常に計算負荷が大きく時間がかかります。上述のような数理モデルを適用
し、系全体をマクロなモデルでシミュレーションすることで、より効率的に素早く粉体の特性
や挙動を予測することが出来るようになる効果があります。
 
 私には粉体のモデル化をより進め、将来的には「粉体力学」へ展開させたいという想いがあ
ります。流体力学のように、粉に関する挙動や現象を一般化したい。そのために、こちらのテ
ーマの進捗は大きな一歩であったと思っています。
 
写真:研究室のサーバールームにて、新しいマシンを導入していた学生と共に。
(右から石原先生、望月陽生さん、鈴木太久哉さん、蛭田大稀さん)
 
 私たちは領域的に産業界とは近いところに位置しています。多くの粉砕機メーカー、混合機
メーカーやユーザー企業と対話してきましたので、色々な課題解決への知見が蓄積されていま
す。企業同士で対話が難しい場合や、専門的な知見が必要な場合には、大学が中立の立場で間
に入ることで車輪が回り始めることもあるかと思います。粉体プロセスに関することは是非ご
相談して頂ければできることがあるかもしれません。私たちは、粉体にまつわるプロセスをシ
ミュレーションにより最適化し課題を解決することで、社会の省エネやカーボンニュートラル
へ貢献していきたいと思っています。
 
★産学連携ポイント★
・粉体材料の構造評価や解析
・化粧品・食品・材料メーカー等における粉体プロセスにかかる課題解決
(企業側に実験的な知見が蓄積されており、大学側に計算の役割を期待するようなケースが
 想定されやすい。)
・装置メーカーとユーザーとの三者連携(中立の立場での参画)
 
 
以上
INDEXへ戻る