研究者紹介
小関 良卓 助教
2023.07.07
多元物質科学研究所
附属マテリアル・計測ハイブリッド研究センター
有機・バイオナノ材料研究分野
助教 小関 良卓(こせき よしたか)先生
有機・バイオナノ材料研究分野
助教 小関 良卓(こせき よしたか)先生
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●INTRODUCTION●
今回は、有機合成がご専門の小関先生に2種類のチャレンジングな研究テーマについて伺いました。
一つは、抗がん剤のドラッグデリバリーシステムの研究開発、もう一つはセルロースを用いた有用
物質のグリーンプロセス合成です。一見全く異なる二つのテーマから小関先生の強みに迫りました。
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有機化学は大きな学問分野です。私はその中でも、自然界に存在する天然化合物の構造を決定したり
人の手で合成したりする分野(構造決定・全合成)が専門です。学生時代には、土壌菌代謝物の単離・
構造決定や、化合物の全合成研究(ゴキブリの性フェロモンの全合成等)に取り組みました。そして
2016年に東北大学に着任してからは、こうした有機化学合成の背景を生かした挑戦的なテーマに取り
組んでいます。
写真:研究資料を説明する小関先生。
最初に「ナノ薬剤による抗がん剤開発」というテーマをご紹介します。低分子サイズの抗がん剤の課題
として、そのサイズ(~10nm)の薬剤を血管へ投与すると全身に薬剤が拡散し、狙っているがん組織に
特異的に作用させられない・副作用が大きいといった点があります。解決策として、何らかのキャリア
(高分子やタンパク質等)に抗がん剤分子を組み込み、10~200nmに変え、がん組織近傍に特有の血管
間隙に抗がん剤キャリア体を集積させる手法が知られていますが(EPR効果)、これにはキャリア自身の
副作用や原理上薬剤濃度が低い等の問題が残っています。
そこで私たちの研究室ではキャリア体フリーのナノ薬剤を開発しました。SN-38という分子は、水に溶
けるよう分子の一部を変換した「イリノテカン」という形状で抗がん剤に使われていますが、このSN-38
分子に、あえて水に溶けないコレステロール置換基を付与し、再沈法という手法を用いて分子を集合させ
ることで、ナノ薬剤化したのです(SN-38×コレステロール ナノ・プロドラッグ)。私たちが開発したこ
のナノ薬剤は、マウスでの実験で、既存のイリノテカンの1/10量で同等効果を持つことが確認できていま
す。薬剤担持率が高く、キャリアによる副作用の懸念が少ないというメリットも維持しています。このよ
うな成果の実用化に向けて、現在は、東北大学医学系研究科やAMEDと連携して少しずつ長い道のりを歩
み始めたところです。
写真:低分子集合型ナノ薬剤とSN-38プロドラッグ。
写真:ナノ薬剤のSEM画像と、研究コンセプト。
2つ目は、かなり1つ目と毛色の違うテーマですが「バイオマス変換法の開発」です。セルロースは最
も生産量が多いバイオマス資源であり、セルロースから低コストでグルコースを得られるという報告は多
くありますが、ここからさらに付加価値の高い化合物を合成できないかと考えました。そもそもグルコー
スを出発点とする時点で得られる生成物が分子骨格上限られるため、一旦グルコースからグルコース誘導
体(グルカール)を合成しそこから別の骨格の生成物を得ることを考えました。
図:生物活性物質の合成経路。
このアプローチは功を奏し、一旦グルカールを合成すると、その後はグリーンな水熱反応(水と120℃
程度の加熱)のみで別骨格のシクロペンテノイド(FS-01)を得られること、ここから香料(ジャスモン
酸メチル)や抗菌剤等に利用可能な様々な有用物質を合成できることが分かりました。
私は大学人ですので、良くやられることや結果が見えるようなことに取り組むのではなく、少しチャレ
ンジングであっても社会的な意義の大きなことをやってみるという姿勢を大切にしています。これまでの
成果が徐々に形になってきましたので、例えば上述の手法や化合物を利用することに関心のある企業と一
緒に新たな取り組みも進めていきたいと思います。
★産学連携ポイント★
・低分子医薬品(抗がん剤など)の開発
・新しいDDS(ドラッグデリバリーシステム)の開発
・バイオマスからの有用化合物の製造プロセス開発
・新たな有用化合物のグリーンプロセスでの合成
・新しいDDS(ドラッグデリバリーシステム)の開発
・バイオマスからの有用化合物の製造プロセス開発
・新たな有用化合物のグリーンプロセスでの合成
・関連事業
以上