研究者紹介
北浦 英樹 准教授
2023.10.06
歯学研究科 顎口腔矯正学分野 准教授
北浦 英樹(きたうら ひでき)先生
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●INTRODUCTION●
骨は皮膚と同じように新陳代謝を繰り返しています。骨を破壊する破骨細胞と、骨を再生する骨芽細胞
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●INTRODUCTION●
骨は皮膚と同じように新陳代謝を繰り返しています。骨を破壊する破骨細胞と、骨を再生する骨芽細胞
の働きですが、このバランスが崩れて破骨細胞が活性化することで様々な疾患が引き起こされます。今
回は、矯正歯科の分野で歯の移動(骨の破壊と再生)メカニズムを研究する中で、食から疾患予防への
アプローチにも挑戦されている歯学研究科の北浦先生にお話を伺いました。
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「顎口腔矯正学」と分野名からも分かる通り、私たちの分野の主な研究は矯正歯科における歯の移動
のメカニズムを解明するというものです。矯正歯科の課題として主に3点があります。矯正歯科治療中
の見た目の問題(審美的な面)、費用が高額であること、期間が長いことです。この中で、特に期間の
長さについて、生体をコントロールすることで歯の移動速度、動かし方を制御し、解決していこうとい
う研究が重要なテーマの一つとなっています。
写真1:実験室で研究内容を説明する北浦先生。
まず、簡単に歯が動く仕組みについて説明します。矯正歯科では動かしたい方向に矯正力をかけます
が、矯正力がかかると骨を吸収する「破骨細胞」が歯の外側の骨を吸収します(骨吸収)。反対側では
歯を再生する「骨芽細胞」が骨を作るため、結果として歯・歯根膜の入っている溝の位置が変わり、歯
が移動します。破骨細胞が形成されるためにはRANKLという物質が生成されることが必要です。また、
TNF-αという物質も、腫瘍壊死因子として知られ、破骨細胞形成を引き起こすことで有名です。
図1:歯の移動と破骨細胞の働きの模式図。歯は歯槽骨(オレンジ色の部分の骨)と歯根膜(ピンク色
の部分、歯と骨を繋ぎクッションの役割を果たしている)の間に固定されている。
骨形成(骨芽細胞の働き)と骨吸収(破骨細胞の働き)のバランスが取れた状態であれば良いのです
が関節リウマチや歯周病のような疾患では、そのバランスが崩れ病的な骨吸収が生じ、機能障害を引き
起こしてしまう問題があります。特にTNF-αについては、病的な炎症が起こった時に特に現れる物質で
あり、矯正学的歯の移動の場合にもTNF-αが働いていることが分かっています。私はこのTNF-αと破骨
細胞のメカニズムに特に着目してきました。
あるとき「革新的食学拠点」(口腔科学(歯学)を「栄養学」と「食品科学」に統合・融合した世界
初の学際共創科学拠点)のシンポジウムで本学農学研究科の白川仁教授のチームが開発した特殊な発酵
米ぬかが様々な生物学的活性を持つことを知り、TNF-αの抑制にも効果もあることから、病的な破骨細
胞抑制効果があるのではないかというアイデアを思いつき、共同研究を提案しました。実際に予想は当
たり、発酵米ぬかや発酵米ぬか抽出物は、破骨細胞の形成を直接的にも間接的にも抑制するという結果
が得られました。この結果については骨吸収抑制剤という形で特許出願しています。
図2:TNF-α、RANKLと破骨細胞の形成、発酵米ぬかの抑制機構。LPS(リポポリサッカロイド)とい
う炎症を誘導する原因物質を投与することで破骨細胞とマクロファージが活性化し、それぞれRANKL、
TNF-αを発現します。これが破骨細胞の形成を活性化します。発酵米ぬかはTNF-αの発現および破骨細
胞形成のいずれも抑制することが分かりました。
図3:細胞を染色した顕微画像。右側ではTNF-αにより破骨細胞が多く形成されていることが分かる。
(赤く大きいものが破骨細胞。)
病的な骨破壊を抑えるには投薬という手段も勿論ありますが、より簡単で手軽な食からという方法も
必要であると考えています。このテーマについてはまだ未解明の部分がありますので、新規有用成分の
特定など、研究を継続して進めていくつもりです。将来的には、シリアルバーやガム等に発酵米ぬかあ
るいはその中の有用成分を添加する等、食からの骨破壊の制御という形で貢献できればと考えています。
今回は、破骨細胞・TNF-αに注目して研究内容をご紹介しましたが、実は他にも様々な取り組みを進
今回は、破骨細胞・TNF-αに注目して研究内容をご紹介しましたが、実は他にも様々な取り組みを進
めています。メタボリックシンドローム等が引き起こす疾患の骨代謝への影響や、金属アレルギー患者
向け矯正用ワイヤーの開発等も行っています。今後も、異分野の研究者や民間企業と連携しながら、事
業化も視野に入れて研究を進めていきます。また、研究成果に関する情報発信も継続していきたいと考
えています。
★産学連携ポイント★
・加速矯正治療の開発
・病的骨破壊(TNF-α・RANKL・破骨細胞のメカニズム)を伴う疾患の制御
・食による骨破壊の制御
・メタボリックシンドローム及び加齢により引き起こされる疾患のメカニズム解明
・金属アレルギー患者用の矯正ワイヤーの開発
・骨細胞の骨免疫及び骨代謝への役割解明
・病的骨破壊(TNF-α・RANKL・破骨細胞のメカニズム)を伴う疾患の制御
・食による骨破壊の制御
・メタボリックシンドローム及び加齢により引き起こされる疾患のメカニズム解明
・金属アレルギー患者用の矯正ワイヤーの開発
・骨細胞の骨免疫及び骨代謝への役割解明
・各種プレスリリース
以上