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研究者紹介

細田 千尋 准教授

2024.05.07
情報科学研究科
准教授 細田 千尋 (ほそだ ちひろ) 先生 
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●INTRODUCTION●
私たちには個性があります。個性に合わせて自分の能力を伸ばし、発揮できる社会は、皆にとって幸せな世
界であるはずです。では人は何がどう違い、どのようなアプローチで力を伸ばすことが望ましいのでしょう
か。情報科学研究科の細田先生は、脳の違いに着目し、様々な人間の個性を解明し、それぞれに最適化した
学習や支援、社会システムを提案しています。是非、個性を活かせる社会について、皆さんも考えてみて下
さい。
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 今の研究の出発点だったと感じるのは、2014年に採択されたJST「さきがけ」事業(※1)です。
当時は個別最適化教育が文科省から謳われ始めた頃でした。生徒の個性を把握するなら、個人の脳情報を利
用することができるのではと考え、これをテーマに研究に取り組みました。英語学習など、大抵の学習にお
いて重要なのは学習を「継続する力」があるか、です。大抵のことは継続することができれば、ある程度の
結果を出すことが出来ます。継続力は重要な指標なのです。
 
 私たちは、MRIで脳構造を調べると、その人の学習の継続力を高確率で予測できることを発見しました。
また、学習の継続が難しい人たちを把握するだけではなく、この集団について目標設定を細分化し、より頻
繁に達成感を感じられるプログラムを提供する等、個性に合わせた学習を設計すると、学習が継続されるこ
とによって能力をもっと発揮させることができることも分かりました。個性に合わせ、多様な人々が能力を
発揮する社会の実現に近づく成果が得られたのです。
 
写真1:研究内容を説明する細田先生。
 
図1:脳構造の違いに合わせたアプローチ。
 
 「さきがけ」事業では同領域で研究していた他大学の研究者と対話する機会がありました。学習行動を促
進するためのフィードバックについて、ポジティブなフィードバックが必ずしも良い結果に繋がらない事、
ネガティブなフィードバックによって却って成果を出せるタイプの人がおり、ここでもさまざまな個性があ
ることが分かってきているという話でした。この会話が、次のJST「CREST」事業(※2)での研究の種になり
ました。
 
 2018年からのCREST事業では、フィードバックをヒントに「情報の受容性」について研究を行いました。
例えば、リハビリの現場等でVRを使って3次元の情報を受容し、学習をしてもらう場面があるのですが、そ
のようなデバイスを使った時、明らかに効果がある人と無い人がいることは経験的に分かっていました。こ
の事業では、こうした情報の受容性についてスクリーニングする、つまり脳構造を見ることで「VR受容性」
がある人間とない人間を分けることを試み、成功しています。

 これが意味するところは、VR等による視覚の拡張や、ロボットアームによる触覚の拡張等、工学的なアプ
ローチによる人間の能力拡張が実現してきていますが、先端技術を使う側、つまり人間の受容性や個性にも
着目しなければ、そのインパクトは目減りしてしまうということです。単なるデバイス革新だけではなく、
人間への適切なアプローチが重要なのです。
 
 ここまでの研究では、脳構造の違いという個性を考慮して、それぞれに最適化した教育を提供することで
ウェルビーイングな学びが実現できるという根拠を示すことができたと感じています。
 
 ここで、もう一つ別の研究テーマをご紹介したいと思います。私は2022年に東北大学に着任したタイミン
グで、いわゆるワンオペで3人の子供たちを育てることになりました。以前と比べ、子供たちに関わる大人の
数が減ることが気になり、その影響を調べたのですが、子供たちと親以外の人間との関わりに関する研究報告
が殆ど無いことに気づきました。ここから「Child Care Commons」という親以外の第三者を含めた社会での
子育てを着想し、ムーンショット型研究開発事業(※3)に採択されました。

図2:「Child Care Commons」の概念図。
 
 研究に取り組んでみると、親以外の大人との信頼関係が築けていると大人になってからの幸福度が高いこと
は明らかになりました。今後も研究を継続し、どのような関係性の人間のどのような関わり方が子供にとって
良い影響をもたらすのか、また子供に合わせた関わりの最適化が出来るか等、取り組んでいきたいと考えてい
ます。将来的には、様々な個性を持つ子供たちの日常に自然に溶け込む、最適化された支援が提供できる社会
を実現していきたいです。

 社会課題解決という文脈で非常に期待していただいていると思いますが、子育てという様々な思想・文化的
背景が渦巻くテーマで実社会を変革していくという点で、かなりタフな取り組みだと感じています。今後も、
色々な背景の方との対話を大切に、研究だけではなく色々な試行錯誤を続けて参りますので、議論に参画して
下さる方・ビジョンに共感して下さる方との出会いを期待しています。
 
★産学連携ポイント★
・脳構造の違い(fMRI或いは代替手法)による個性の把握
・個性に基づく教育手法
・子供のウェルビーイング
・子育ての社会化
 
↓↓もっと知りたい方はこちら↓↓
東北大学研究者紹介
【知的財産】
JP7334958 判定装置、判定方法及び判定プログラム
JP5804663 性向判別装置、タスク実行支援装置、性向判別コンピュータプログラムおよびタスク実行支援
コンピュータプログラム
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※1:JST「さきがけ」事業:創造的な革新的新技術シーズを世界に先駆けて創出することを目的とし、研究
総括のマネージメント、領域アドバイザーの助言により、様々な研究者と交流・触発しながら、個人が独立し
た研究を推進する事業
※2:JST「CREST」事業:国が定める戦略目標の達成に向けて、課題達成型基礎研究を推進し、科学技術イ
ノベーションを生み出す革新的技術シーズを創出するためのチーム型研究事業
※3:JST「ムーンショット型研究開発事業」:我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術
の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログ
ラム。内閣府が提示した複数の目標をJST・NEDO・AMED等が担当し推進。
 
以上
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