教育システムの職業特殊性と世論に関する研究
- 概要
教育システムの国際比較に関する研究では、教育によって得た職業的技能や資格が労働市場において評価されるのかに関心が払われてきた。本研究は、
(1)日本社会における学歴と職業のマッチング、
(2)職業教育と社会階層の結びつき、
(3)人々が教育システムを支える費用負担の問題をどのように捉えているか
という3点の研究課題を、新たなアプローチとデータ分析によって捉えるものである。- 従来技術との比較
関連研究では、より職業に関連した知識・技能を学校教育が提供すること(職業特殊性の高さ)が若年者の労働市場への移行を円滑にすることが指摘されてきた。こうした傾向は国ごとの教育システムの違いというマクロな比較がなされることが多かったが、本研究では、こうした特徴の背後にある個人レベルの学歴・職業のパターンを明らかにした。また、人々が望ましいと考える教育システムの費用負担のあり方について、サーベイ実験の手法を用いた新たな分析を行った。
- 特徴・独自性
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学歴と職業の連関を、学歴段階間・学歴段階内の寄与に分解したところ、学科・専攻分野の寄与が占める割合が3割程度占めていた。必ずしも人文社会系の分野と職業との対応が弱いというわけでもなく、通説的な理解を否定する知見が得られた。
より職業特殊性の強い専攻分野を卒業していることは、労働市場におけるより良好なアウトカムをもたらす傾向あり、またこうした傾向は実際にその専攻分野と強い結びつきを持つ職業にマッチングすることによって生じることを明らかにした。
教育の公的支出に関する世論の分析においては、財政制約が支持低下をもたらす一方、公的債務が受け入れられやすい傾向が示された。 - 実用化イメージ
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雇用の不安定化や知識経済化が進む中で、教育システムの職業的機能がますます問われるようになっている。そのような中で、本研究は人々が学校において身につけるスキルと、労働市場における職業のマッチングの問題に対して、新たな視点からのアプローチを可能にしている。
また、少子高齢化に伴う財政制約の中においては、他の公的支出とのバランスの中で教育システムを維持していくことが必要となる。本研究は世論形成や社会的分断のより正確な理解と政策設計に貢献できる可能性がある。 - キーワード
研究者
大学院文学研究科
小川 和孝 准教授
修士(教育学)(東京大学)/博士(教育学)(東京大学)
Katsunori Ogawa, Associate Professor