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発明品×製品化 ケーススタディ 共創通信 Co-Creation Report

発明品×製品化 ケーススタディ 共創通信 Co-Creation Report

東北大学加齢医学研究所
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株式会社NeU
日常生活の中で
手軽に脳の働きを計測。
先進の脳計測技術に
脳科学の知見を融合。

CASE #02

ニューロイメージング

脳計測技術

光トポグラフィ技術で、いつでもどこでも脳の働きを計測。

この数十年の間に一気に進んできたといわれる脳研究の世界。その進展を支えてきたのが脳の働きを画像化する技術の進歩だ。X線CTに始まり、PET(ポジトロン断層法)、MRI(磁気共鳴画像法)を応用した機能的MRI(fMRI)、そして、とりわけ日本で実用化の取り組みが進んだのが「光トポグラフィ」という技術である。これは、頭に着けた装置から特定の波長をもつ光(近赤外光)をあて、脳を流れる血液の量の変化を調べるというものだ。NeUの設立者の一人であり、現在東北大学加齢医学研究所の所長を務める川島隆太教授は、「光トポグラフィ」の魅力を次のように語る。
「従来の脳の計測装置は、MRIであればシールドされた部屋、PETの場合は放射線管理区域というように、いわゆる実験室が必要でした。しかも、いずれもベッドで仰向けになり頭を固定するといった制約がありました。一方、光トポグラフィ技術を使えば日常生活環境のもと、いつでもどこでも脳の働きを計測できる。この点が最大の魅力といえるでしょう」。

ウェアラブルタイプの装置で、脳計測を社会の中で活かす。

2017年8月に設立されたNeUは、東北大学加齢医学研究所・川島研究室がもつ「認知脳科学知見」と、日立ハイテクノロジーズがもつ「携帯型脳計測技術」を融合し誕生した。それまで培った脳科学の知見と技術を軸に、社会のさまざまな分野で人にフォーカスしたソリューションを展開し、脳科学の産業応用を目標に掲げる。設立までの経緯を川島教授はこう説明する。
「私が東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)にいた2001年、日立製作所が開発した医療系機器を販売する日立メディコから光トポグラフィ装置を購入し、さまざまな研究に使用していました。その後、医療機器開発のプロジェクトを一緒に進めることになり、そこで目標にしたのが、誰でも日常生活の中で測ることのできるウェアラブルな光トポグラフィ装置の開発だったのです」。
開発は無事終了し、2009年、日立製作所がウェアラブル型光トポグラフィの発売を開始。さらに2014年には日立製作所から日立ハイテクノロジーズに事業が移管され、簡易型スマホ連動型の装置も発売された。そこで問題になったのが、「装置はあっても、どう使うかというノウハウがない」ということだった。
「社会の中でこの装置を活かしていくため、さらに共同で取り組んでいくことになりました。日本の大企業はセクションの縦割りがあるなど、新しいことに対し身軽に動くというのが難しい。これは大学も同じです。脳の計測を社会の中で活かすというフィールドは、新しいがゆえに競争が激しい。新しい会社という形をとれば、ものづくりの面ではやりたいことをやりたいように動かせる。それがNeUを設立した大きな動機でした」。

脳計測の結果をもとに、さまざまなソリューションを提供。

NeUが社会に提供するサービスには、以下の4つの柱がある。
 ①ブレインフィットネス
 ②脳の計測による組織の活力改善プログラム
 ③ニューロマーケティング・感性評価
 ④脳計測ハードウェア&システムの販売・提供
中でも、川島研究室のノウハウが最大限に活用されているのが、①と②の分野である。「脳トレ」などを通して、脳を元気にする方法を提案してきた川島教授だが、「すべての人の脳の働きを高める仕組みは作れない」ということはあらかじめ分かっていたという。そこで考えたのが、自分の脳の働きを測定し、自分に最も適した脳のトレーニングプログラムを行う「ブレインフィットネス」だ。いわば次世代の脳トレ。すべての人の脳の健康を保つ、そんな可能性がこのサービスにはある。
②のサービスには、川島教授の新たな発見が活かされている。それは、「自分の脳の働きを、自分の目で見ることによってストレスを下げることができる」というものだ。仕事上のストレスが非常に強い人に、ウェアラブル型光トポグラフィ装置を着けながら脳活動の上げ下げを1日10〜15分やってもらったところ、ストレス度が下がり、脳の構造も変化することが分かったという。
「社会で健全に働き続けるためストレスチェックをしよう、という掛け声はかけても、残念ながらそこで終わってしまうことが多い。しかし私たちなら、チェックのその先にストレスリダクションというソリューションを提供できる。企業に対し社員のストレスチェックが義務付けられている今だからこそ、脳科学を活用したこのサービスには大きな意義があるのではないでしょうか」。

基礎研究をしっかり進めつつ、1割の力を産学連携に。

設立後の半年を助走期間と位置付けていたというが、「すでに本格的に走り出している感じだ」という。契約の段階にまで進んだ案件もあり、脳科学の知識をもった営業担当者の育成が早くも課題になっているという。設立の際、出資元の一つとなった東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社(THVP)に対し、5年後には上場という目標を示した。「10年、20年で陳腐化してしまう技術ではないだけに、きっちり存在できる企業として独立させることが私たちの役割」と話す川島教授に、加齢医学研究所での産学連携の状況を聞いた。
「加齢医学研究所をみると、製薬会社等とつながりの深い臨床の分野では、産学連携は自然に起こっています。また、基礎研究の分野では、スマートエイジング、特に認知症の予防にみんなで取り組んでいこうとさまざまな産学連携の取り組みが行われているところです。基礎研究はしっかりとやりながら、1割くらいの力を産学連携に向けてほしい、というのが常々私が話していることです。NeUの設立の際もそうでしたが、産学連携の出口として起業に踏み出すという場合には、特許などの知財の移転や資金の確保が何より重要です。産学連携機構には、大学と産業界がつながる際の橋渡し的な役割だけでなく、知財や資金面でのアドバイスにも期待しています」。

携帯型脳活動計測装置HOT-1000を装着し、スマートフォン等でリアルタイムに脳活動を計測。ブレインフィットネスや組織の活力改善等に利用する。

眼鏡メーカーと共同開発したJINS MEMEは、頭と目の動きを計測するウェアラブルデバイス。自己管理のみならず教育やビジネスでの応用も期待される。

PROFILE

株式会社NeU 代表取締役 長谷川 清

東北大学発のベンチャー企業として2017年8月1日設立。東北大学の認知脳科学の知見と、日立ハイテクノロジーズが開発した日常生活の中で簡単に脳血流量変化が計測できる携帯型脳活動計測技術を軸に、脳科学の産業応用事業を手掛ける。脳活動をセルフチェックするための端末の販売など、携帯型脳活動計測装置(通称「脳センサー」)を活用したサービス提供をパートナー企業を介して行っている。