研究者紹介
照月 大悟 助教
2023.08.30
大学院工学研究科 ファインメカニクス専攻バイオメカニクス講座(バイオデバイス工学分野)
助教 照月 大悟(てるつき だいご)先生
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●INTRODUCTION●
どこからともなく漂う花の香り、引き寄せられる美味しい料理の匂い。人間も含めて生物の嗅覚はとて
助教 照月 大悟(てるつき だいご)先生
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●INTRODUCTION●
どこからともなく漂う花の香り、引き寄せられる美味しい料理の匂い。人間も含めて生物の嗅覚はとて
も優れており、空気中に漂う微量な匂い(化学物質)を検出してその発生源を突き止めることが出来ま
す。特に昆虫は、特定の匂いをセンシングする能力に長けており、これを応用すれば人間がもっと自由
に匂いを活用できる可能性を秘めています。こうした昆虫の持つ機能を利用して様々な匂い検出を実現
することにより新たなアプローチでの社会課題解決に挑む工学研究科の照月先生にお話を聞きました。
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私の研究内容は、匂いのセンシングと、いかにしてその発生源を探索するかというものです。実は、
古くから難問として知られているテーマですが、だからこそ魅力的であり、私はそこに解を見出したい
と考えています。
写真:研究内容を説明する照月先生。
いわゆるバイオミメティクスという分野では、生物の機能を模倣した材料やデバイスを人工的に作り
出しますが、私の用いる手法は「バイオハイブリッド」です。つまり生物の器官を取り出し、そのまま
デバイスに組み込んで使います。
昆虫の触角は、非常に優れた匂いセンサ素子であることが知られており、1957年には切り出した昆虫
触角を2つの電極で挟み、回路に組み込む手法である触角電図(Electroantennogram; EAG)がドイツ
で開発されました。今でもこの技術は広く用いられています。カイコガという蛾のオスはメスの性フェ
ロモン(ボンビコール)に対する感度が非常に高く、1分子が触れても感知できると言われています。
カイコガ触角を用いたEAGは、高い選択性・高い応答速度・繰り返し応答が可能であるため、センサと
して非常に優秀です。市販のガスセンサではこのような性能は得られません。また、カイコガは古くか
ら養蚕業で使われてきた生物ですので、安価に量産できる点も大きなメリットです。
図1:左上:カイコガの触角写真。左下:EAG概念図。右:カイコガEAGデバイスによる匂いセンシン
グ実験の写真。
ここまでは検出側のお話でしたが、匂い源にたどり着くには探索の機能が無ければなりません。地上
を走行するロボットを使っても良いのですが、より効率的に探索するには3次元的で不連続な匂い分布
を把握する必要があります。そこで私はカイコガ触角を搭載したバイオハイブリッドドローンの開発を
進めてきました。
図2:カイコガ触角搭載バイオハイブリッドドローン。
検出部にはカイコガ触角を用いてそれをドローンに搭載。(実際には検出部はエンクロージャで覆う。)
カイコガがどのような動きで匂い源を探しているかにヒントを得て、「スパイラルサージ・アルゴリズ
ム」という回転と直進を組み合わせたアルゴリズムをドローンに実装しました。アルゴリズムだけでは、
ドローンのプロペラが発生させる気流の影響で、流れてくる匂いを検出できませんでした。そこで、エン
クロージャという筒状のパーツを検出部につけることで、プロペラがドローン前方の匂いをセンサに取り
込む気流が生まれ、匂いの追跡が可能になり、世界で初めて匂い濃度や飛来方向を考慮した匂い源探索に
成功しました。
後で知ったのですが、実は昆虫も羽ばたきによって自身の前方の空気を触角に流しているようです。触
角の形状もセンシングに最適化されており、生物の素晴らしい作りにはいつも感嘆しています。
図3:バイオハイブリッドドローンの飛行実験の様子(左上)。EAGが検出した信号(下)、ドローンの
飛行軌跡(右上)。ドローンがアルゴリズムに従い回転と直進を繰り返して匂い源の方向に飛行している
ことが分かる。
想定する本技術の応用先についてもお話しします。上述の研究では検出する分子はカイコガのフェロモ
ンですが、昆虫の嗅覚受容体は多様な匂い分子に応答することが知られており、ドイツの大学では受容体
のデータベースも整備されています。また、カイコガは遺伝子操作を行うことで特定の匂い分子を検出す
るように改変することが可能です。今後、爆発物やカビ、人間の汗、何らかの疾患等を検出する高感度な
ハンディタイプの匂いセンサに応用することも考えられます。匂いであれば暗闇でも壁の裏でも使うこと
が出来ますから、色々な応用が考えられると思います。危険な場面や広大なエリアで使うとなれば、探索
部分は人間や救助犬等ではなく将来的にドローン等がその役割を担うことになるだろうと考えています。
具体的には、例えば空港や公共施設での危険物検知、農業応用(害虫検出)、災害救助(被災者の探査)
等を考えており、チャレンジングではありますが、社会的に非常に有意義なテーマですので、関心のある
企業との連携を歓迎しています。
★産学連携ポイント★
・匂い源の探索(危険物検知、農業応用、災害救助等)
・匂い源探索ドローンの研究開発・応用
・EAGを用いた匂いセンシング
・EAGを用いた匂いセンシング
・関連情報
以上