研究者紹介
濵口 祐 准教授
2023.11.01
多元物質科学研究所 有機・生命科学研究部門 生物分子機能計測研究分野
准教授 濵口 祐(はまぐち たすく)先生
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●INTRODUCTION●
どうしてその製品はその機能を発揮しているのか?その手掛かりを知るためのアプローチは様々ありま
准教授 濵口 祐(はまぐち たすく)先生
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●INTRODUCTION●
どうしてその製品はその機能を発揮しているのか?その手掛かりを知るためのアプローチは様々ありま
すが、最も直感的なアプローチは「よく見る」ことかもしれません。今回ご紹介する多元物質化学研究
所の濵口先生は、クライオ電子顕微鏡という最先端ツールを通して、ゲル・半導体・樹脂・化粧品等の
様々な材料を観察し、その真の姿を明らかにしようとしています。
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私は、様々なサンプルの構造を高い精度で明らかにすることを目指して研究を進めてきました。クラ
イオ電子顕微鏡や、放射光施設等の最先端ツールを活用し、タンパク質やウイルス、半導体材料等、様
々な対象の3次元構造や動きのダイナミクスなどまでも明らかにしようとしています。
写真1:研究内容を説明する濵口先生。
我々の研究室が主にツールとして利用しているクライオ電子顕微鏡は、世界でもその9割ほどが創薬
のプラットフォームやタンパク質の構造解析など、ライフサイエンス分野での成果を目的として利用さ
れています。タンパク質・薬効分子の立体構造は創薬における重要な因子であるため、この分野で非常
に有用なツールであることは間違いありません。しかし、私たちの研究室では、ライフサイエンス以外
の分野でも、クライオ電子顕微鏡を活用して多様なサンプルをマイクロ・ナノスケールで解析していき
たいと考えています。測定が難しいサンプルであっても、オーダーメイドに条件を検討し、高い精度で
効率の良い測定ができることが我々の強みです。
今、取り組んでいる面白いサンプルとして、納豆菌があります。納豆のネバネバした部分は水とポリ
マーのハイドロジェル構造で、この中で納豆菌が休眠状態で安定して存在することが分かっています。
実は、他の細菌についてもこのハイドロジェル内では安定的に観察できるのではないかと考えられてお
り、汎用的な観測場としての役割も期待されています。また、このハイドロジェルは微粒子を吸着する
機能も有しており、今後、生物由来の新しい吸着剤などに応用できる可能性も秘めています。
図1:測定系と納豆菌の画像。測定にあたってサンプルは液体窒素温度へ冷却し、薄く削り、電子線の
透過画像を観察する。画像では、芽胞と呼ばれる休眠状態時に菌が形成する殻が見られる。測定は簡単
ではないが、多くの新たな知見が得られる。
上記は一例ですが、今後私がやりたいことについて2点ご紹介します。
1点目は、解析可能な対象を増やすということです。クライオ電子顕微鏡のサンプルは、測定用のグ
リッドに薄膜を張る必要があることから親水性の溶液である必要がありましたが、私たちはグリッド素
材の検討等を通して、水以外の溶液も観測できる環境を実現しました。有機溶媒内の分子構造や分散状
況等も解析できるようになり、応用の幅が広がっています。今後は、食品や飲料、化成品等、これまで
見たことが無かった様々なサンプルを観測していきたいと考えます。
図2:多元物質化学研究所(多元研)のクライオ電子顕微鏡の写真と、対象とする多様なターゲット。
2点目に、精度の高い画像を効率よく得られるということです。どうしても電子顕微鏡を使うと数秒
の測定であってもサンプルが強い電子線照射によりダメージを受け、場合によっては構造が変化してし
まいます。私は解析手法に工夫を行い、取得したデータからサンプルダメージを軽減し、より真の姿に
近い構造を確認できる工程を実現しました。画像自体の取得効率を上げるアプローチも重要です。これ
については、我々のクライオ電子顕微鏡ではAIを用いて自動測定の効率を大幅に改善し、夜間の自動測
定で良質な画像データを取得することを実現しています。
図3:AIを用いた測定効率の向上。ソフトウェア「yoneoLocr」の開発・導入により完全自動測定が可
能となった。
産業界との連携については、是非推進していきたいと考えています。例えば、食品・飲料、化粧品、
化成品、素材等の製造工程では、工程・操作が製品に与えている真の変化を理解できていない、つまり
期待される製品機能を制御できていない状況は、まだまだあると思っています。そこに我々の仕事があ
ります。材料の構造のbefore /afterを可視化することにより、何をすることでサンプルがどんな変化を
起こし、どんな状態になるのかをつまびらかにすることができます。期待される製品機能に対して、何
をすることがベストなのか、根拠を持たせることができるのです。
写真2:クライオ電子顕微鏡の操作室。コックピットと呼ばれているそうです。
来年度には、次世代放射光施設Nanoterasuも東北大学キャンパス内に稼働します。放射光施設では、
サンプルの統計的に平均化された全体像に関する情報が取得できます。一方、クライオ電子顕微鏡では
特定分子構造のスナップショットを撮像することができます。これらを相補的に利用し、計算科学の力
でモデリングすることで、効率的にサンプルの真の姿に迫ることが可能です。勿論、何を求めるかによ
って何をどこまでやるのかは変わりますから、ご相談頂ければと思います。これまでにそのような経験
のなかった分野の企業とも協働できれば幸いです。
★産学連携ポイント★
・3次元の分子構造を把握したい各種サンプルの観測
・製品の構造、良い性能が出ているが状態を把握したい等の課題解決
・製品の構造、良い性能が出ているが状態を把握したい等の課題解決
・プレスリリース
以上