食品を咬んだ際の脳血流と認知機能の関連
- 概要
機能的近赤外線分光法(fNIRS)を用いて咀嚼中の前頭前野脳血流変動を非侵襲的・リアルタイムに計測し、咀嚼機能と認知機能の関連を定量的に評価する研究である。骨格性下顎前突症患者では、健常者と比較して咀嚼誘発性脳血流増加が有意に低下しており、その低下量が認知機能検査スコアと相関することを明らかにした(Scientific Reports 2026)。さらに、術前の安静時脳血流ベースライン値が外科的矯正治療後の脳血流変化の方向性を予測するという新知見を見出し、個別化医療への応用可能性を示した。
- 従来技術との比較
咀嚼と脳機能の関連研究には従来fMRIやPETが用いられてきたが、大型装置を要し咀嚼動作中のリアルタイム計測が困難であった。脳波(EEG)は計測可能であるものの、顎運動アーチファクトの除去が課題とされる。fNIRSは被験者の動きに対して比較的頑健であり、咀嚼という生理的動作中でも安定した脳血流変動の連続計測が可能である。認知機能評価においても従来の紙筆検査やタブレット式検査が主流であったが、検者依存性や負担の大きさが課題であった。本研究では市販のアイトラッキング式認知機能測定装置を導入することで、簡便かつ客観的な認知機能の定量評価を実現し、脳血流計測との同時評価を可能にした。
- 特徴・独自性
-
顎変形症という明確な臨床表現型を持つ患者群を対象とすることで、咀嚼機能低下と脳血流・認知機能の因果関係に迫る準自然実験的デザインを採用している点が独自性の核心である。加えて、fNIRSによる咀嚼時脳血流と市販のアイトラッキング式認知機能測定装置を組み合わせた多角的な評価プロトコルを独自に構築し、両指標間に有意な関連があることを示した点は、本研究にしかない強みである。
- 実用化イメージ
-
口腔機能低下が認知症リスクと関連するという社会的関心が高まる中、本研究は「噛む力を守ることが脳を守る」という予防医学的メッセージに科学的根拠を与える。fNIRSと市販のアイトラッキング式認知機能測定装置を組み合わせたポータブルな複合評価システムを歯科診療所・介護施設で活用できる形に実用化することが社会実装の軸となる。医療機器メーカーや介護・ヘルスケア企業との共同研究により、咀嚼機能・脳血流・認知機能を一体的にスクリーニングできるデバイスの製品化を目指したい。
- キーワード
ライフサイエンス
情報通信
環境
ナノテクノロジー・材料
エネルギー
ものづくり・機械
社会基盤・安全
フロンティア・宇宙
人文・社会